トロサックス(The Trossachs)

トロサックス側の岸から見るロッホ・ローモンド
トロサックスは、ヴィクトリア時代に非常に人気があった避暑地です。人気の仕掛け人は18世紀末から19世紀初めにかけて活躍したロマン派詩人で小説家のウォルター・スコット。出世作となった『湖上の美人(Lady of the Lake)』はトロサックスの中心にあるロッホ・カトリンを舞台にした詩であり、また18世紀初めにトロサックス地方中心に活動したマグレガー一族首領ロブ・ロイの名を全国に高めたのも、スコットの小説『ロブ・ロイ』です。ヴィクトリア女王はハイランドのバルモラルに城を立てて夫婦そろって夏を過ごすなど、スコットランドびいきで知られていますが、即位する以前からウォルター・スコットの作品の愛読者でした。
スコットランドびいきの王室の影響はイギリス上流階級社会全体に浸透し、19世紀にはハイランドが貴族の夏の遊び場としてにわかに開けていくのですが、イングランドから見ればハイランドは遠い未開の地。交通も不便でなかなか一般の人が気軽に必要な場所ではありませんでした。そういうわけで、スターリングから鉄道で行けるトロサックスが「ハイランドの入り口」として人気を博したわけです。
ハイランドの入り口といっても、実際にはトロサックスとハイランドの間にはテイサイド地方が控えており、そのままハイランドにつながっているわけではありませんが、確かにヒースに覆われた山や森と湖に彩られた風景はまさにミニハイランド。その自然を守るため、2000年にはスコットランド自治議会がトロサックス一帯をスコットランド初の国立公園に指定しました。日本人にはなぜかあまり知られていないトロサックスですが、ぜひおすすめしたいエリアです。
トロサックスに行くには
鉄道のおかげで栄えたトロサックスですが、スターリングとトロサックスの玄関口カランダーを結ぶ路線は1960年代の鉄道網合理化の憂き目にあって廃線となり、今ではありません。そのため、トロサックスに行くにはレンタカーかバスを利用することになります。スターリングからはカランダーとアバフォイルに路線バスが走っています。本数はあまりないのであらかじめ確認を。また、夏にはクラシックバスを使った観光客向けツアーも出ています。スターリングからのほか、グラスゴーやエディンバラからでも日帰りバスツアーが出ていますが、トロサックス内で一泊すれば、スコットランドならではの自然の中でウォーキングやサイクリングも楽しめます。
カランダー(Callander)
ロブ・ロイの中心地として知られるカランダーは、かつてスターリングからの鉄道の終点だった町で、トロサックス地方の玄関口として栄えました。それだけ観光地としてちょっと商業的に発展しすぎた面もありますが、B&Bやホテルは多く、特にトロサックスに泊まるつもりなら便利な拠点になります。スターリングから車で行く場合は、A84という道路になります。距離は11マイル(約17km)とたいしたことはありませんが、途中ドゥーン(Doune)という町のあたりはきついカーブがあるので運転に注意。ロブ・ロイに興味がある方は、カランダーの町の中心にあるRob Roy and Trossachs Visitor Centreをのぞいてみてください。なお、このセンターはツーリストインフォメーションも兼ねています。
ロッホ・カトリン(Loch Catrine)
A84をそのまま進んでカランダーの町を抜けると、その隣のキルマホッグ(Kilmahog)という村で左手にA821という道が出てくるのでこちらに入ります。このあたりからがトロサックスらしい風景で、そのかわり道もカーブや上下の多い山道になります。左手には細長い湖が広がり、右手にはハイランド牛が放牧されている丘陵地帯という風景はまるでハイランド。ただし風景に見とれてハンドルを誤ると崖を真っ逆さまということになりますので注意しましょう。ブリッグ・オ・ターク(Brig O' Turk)という不思議な名前のついた小さな村(Brigは橋のことなので「トルコ人の橋」なのかと思ったら、Turkはトルコ人ではなくゲール語で猪という意味なんだそうです。猪はでないと思いますが、ここで鹿を見たことがあります)を通り過ぎて森の中をさらに進むと、道が二手に分かれます。右手(直進)の道をとると、トロサックス観光の中心地、ロッホ・カトリンの駐車場にたどり着きます。
ウォルター・スコットの『湖上の美人』の舞台になったロッホ・カトリンは、グラスゴーの水道に飲料水を供給する貯水池でもあります。くれぐれもゴミなど投げ込まないように。餌を使った釣りも禁止です。
19世紀をしのぶなら蒸気船で湖上の旅を。サー・ウォルター・スコット号と名付けられた船がロッホ・カトリンを端から端まで行き来しています。観光シーズンにはかなり長い行列ができます。
湖の東岸には歩道がずっと続いているので、天気がいいなら散歩も楽しめます。蒸気船を片道だけ乗ると、終点ポイントに貸し自転車屋さんがあるので、サイクリングも可能です。
峠を越えてアバフォイル(Aberfoyle)へ
ロッホ・カトリンからはまたカランダー方面に戻ってもいいのですが、時間が許すならA821をアバフォイルに向かって走ってみてください。この道は「公爵峠(Duke's Pass)」という名前が付いていて、うちのダンナによると、ジャコバイトの戦いの時に、カンバーランド公爵率いる政府軍が、ハイランドに向かう際にこの裏道を使って奇襲をかけたのだそうです(未確認。あとで調べてみます)。裏道だっただけあって、カーブはきついし道は細いし、運転に自信がない人にはキツイかも。車が2台すれ違うことができないので、途中にところどころにある退避ポイントや駐車エリアを使って、対向車と道を譲り合うようにしてください。運転する方は大変ですが、乗客にとっては眺めのすばらしいルートです。観光シーズンには途中でキルトに身を包んだバグパイプ吹きのおじさんに出会うことも。
峠を下りるとアバフォイルの町です。ここはカランダーに比べるとこじんまりとしていて、それほど観光地化していません。
クイーンエリザベス・フォレストパークとロッホ・ローモンド
アバフォイルに入る少し手前に、クイーンエリザベス・フォレストパークのビジターセンター(別名David Marshall Lodge)があります。クイーンエリザベス・フォレストパークは、アバフォイルからロッホ・ローモンドまでを覆う森林で、中にはさまざまなウォーキングルートが設定されています。本格的なヒルウォーキングルートは、短時間で気軽にというわけにはいきませんが、なかなか見応えのある滝が見られる「Waterfall Trail」などは、日帰りの立ち寄りでもカバーできます。
フォレストパークの西端は、歌でも有名なロッホ・ローモンド。ロッホ・ローモンド観光というと、湖の西岸ルートをとることが多いのですが、森林に覆われた東岸の方が印象的です。西岸と違って湖沿いにずっと自動車道が走っているわけではないので、ちょっと交通が不便なのですが、南端近くのバルマハー(Balmaha)という村から細い道路が湖の全長の中ほどまで続いています。そこから先はフォレストパーク内になり、遊歩道のみになります。
もうひとつ、ロッホ・ローモンドにはアバフォイルからのルートがあります。B829という道ですが、これまたかなり細い道なので、運転には注意してください。このルートの終点はロッホ・ローモンドの北端近くにあるインヴァスネードというところですが、この道はロッホ・ローモンド沿いに走っているわけではなく(途中ロッホ・カトリンを含め別の湖をいくつも通り過ぎますが)、ロッホ・ローモンドにたどり着いたところが終点で、あとはやはり遊歩道のみになります。
メンティース湖(Lake of Menteith)
アバフォイルからは、A873という道をたどるとスターリングに戻れますが、時間に余裕があるなら、途中メンティース湖に立ち寄ってみてください。ポート・オヴ・メンティース(Port of Menteith)という村に、湖の中の島に行くボートの乗船ポイントがあります。メンティース湖は、スコットランドで唯一ロッホ(Loch)ではなくレイク(Lake)という名前のついた湖です。湖の真ん中にインチマホームという島があり、13世紀の修道院の遺跡が残っています。この修道院は、王座を追われたメアリー女王(Queen Mary of Scots)が一時かくまわれていた場所として知られています。小さな島なので徒歩でぐるりとひとめぐりできます。
ツアー
なお、上に挙げた場所を全てカバーしようとすると、1日ではちょっと難しいと思います。時間に合わせて興味のある場所を選んでください。
運転には自信がないという人の場合、バスツアーを利用するのがいちばん手軽です。前述したスターリング発のクラシックバスのツアーは、カランダー〜ロッホ・カトリン〜アバフォイル〜メンティース湖というルートで、途中乗降自由の1日周遊チケットで8ポンドくらいです。エディンバラからはスターリング観光とトロサックスを合わせて20ポンドくらいの1日ツアーがいくつか出ています。
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更新日: 2001-12-09