観光ガイドになんで大学が出てくるんだと思う方もいるかと思いますが、スターリングは自称「イギリスでいちばん美しいキャンパス」を誇る大学。歴史は浅くても一見の価値があります。また、スターリング大学留学の下調べのためにこのHPを訪れる方もいると思いますので、学生生活についてもちょっとここで紹介したいと思います。こんなことを教えて、といった要望があればどうぞ。

イギリスでは19世紀〜20世紀初頭に設立された大学を「赤レンガ大学」、戦後設立の大学を「コンクリート大学」と呼ぶことがあります。スターリングは「コンクリート大学」というわけですが、建物は色気のないコンクリートでも、立地は魅力的。新しく設立したといっても、まったく何もない更地にキャンパスを作ったわけではありません。このあたりはかつてエアスレー(Airthrey)と呼ばれていた土地ですが、そのエアスレーの領主のお屋敷の庭だったところなのです。木々が植えられて緑豊かな庭の中央には人造湖があり、昔は冬になるとここでカーリングをやったという記録が残っています。
また、エアスレー領主がこの土地を手放した後、しばらくこのお屋敷は産院として使われていました。大学ができた時には、ここの産院で生まれた赤ん坊が大学生として戻ってきたというので、ちょっと話題になったそうです。
18世紀に建てられた領主の居館エアスレー城もそのまま残っていて、語学留学生やTESL(Teaching of English as a Second Language、外国語としての英語教育)の留学生はこのお城で勉強します。お城の前が小さなゴルフコースになっているのがいかにもスコットランド。このお城はロバート・アダムという当時大変人気のあった有名建築家の設計したものです。ロバート・アダムの設計で有名な建築というと、エアーの近くにあるカリーン城(Culzean Castleと書くが、zは発音しない)などが有名です。田舎領主の家であるエアスレー城に比べると、スケールも数段上でなかなかこった建築です。機会があったらこちらもぜひ見てみてください。
カリーン城の室内装飾には、ちょっとウェッジウッド陶器を思わせるような繊細なレリーフ模様がたくさん使われています。これは偶然ではなくて、ロバート・アダムとウェッジウッドが知り合いだったかららしいのですね。ではエアスレー城にもこれが使われているかというと、実は私はよく知りません。「1年間の語学留学中エアスレー城で毎日勉強していたくせに、知らんとは頼りない」という非難の声にに答えるために、まず昔のお城というものがどういう構造をしているかという説明から。
昔イギリスのテレビドラマで"Upstairs Downstairs"というのがありました。一昔前の上流階級の一家と、その使用人達の暮らしを描いたドラマでしたが、「階上・階下」という意味のタイトルは、階上の美しく飾られた部屋で優雅に暮らす主人一家と、階下の部屋で立ち働く使用人の間には、目には見えないけれどもはっきり境界線が引かれていて、2つのかけ離れた世界はけっして交じり合わないのだ、ということを象徴していました。
エアスレー城の場合もこれと同じで、建物の中がいわば表と裏にはっきり分かれています。お城の中には2つの階段があって、表階段は美しい木彫りの大きな階段で、領主一家やゲストが使い、1階の大広間から階上の寝室や居間に通じています。裏階段の方は、各階はずれのドアのうしろに隠れており、半地下のキッチンや食糧庫や使用人部屋に通じるようになっています。ドアがついているのは、使用人が行き来するのが上流の住人やゲストの目に入らないようにという配慮です。こちらの階段はもちろん実用一点張りで、味もそっけもない設計です。
語学センターになった今は、お城の中の部屋は上下の別なく平等に教室として使用しています。主人用の居間で勉強するクラスもあれば使用人の仕事場で勉強するクラスもあるというわけで、私のクラスは要するに外れクジだったんですな。真っ白に塗られた部屋の中は一切飾り気がなく、半地下なので天気がよくて暖かい夏の日でもいつも寒い、冷え性にはつらい教室でした。階上の教室を使った当たりクジ組のクラスは、立派な暖炉のある日当りのいい美しい部屋で、貴婦人のごとく優雅に勉強していたようですが、「使用人クラス」に属する私は足を踏み入れたことがないので、どんな装飾を使っているかなど詳しいことはよく知らないというわけです。階上の部屋で勉強したことがあるラッキーな方、情報提供を歓迎します。

図書館と学食もこの建物の中。昼食にはこの学食のご厄介になることが多くなりますが、味は正直言って最低でした。イギリスの食事がまずいというのは本当なのだなあと、ここの学食で食べるとすんなり納得してしまいますが、イギリス人学生に聞いても「あんなまずい食事は他で食べたことがない」といいますから、ここは特別なのでしょう。夕食の時間にも開いてますが、1日に2食もここで食べるのはさすがに我慢できないと、たいていの人が自炊していました。
もう1つマクロバートセンターの目玉施設は劇場。あまり大きくはありませんが、映画に演劇、舞踊に音楽とバラエティに富んだプログラムを用意しています。映画など日本に比べるとずいぶん安い上、さらに学割もきくとあってずいぶん通いました。ハリウッドのわりと新しいヒット映画からクラシックな名画に「芸術映画」、海外映画など、いろいろ幅広く上映しています。特にスターリングで海外(=非英米)映画を上映するような気の利いた映画館はここだけ。日本映画なんかも時々来ます。邦画を英語の字幕付で観るというのもなかなか面白いものですよ。
なお、マクロバートセンターの施設のほとんどは、学生でなくても利用できます。バーやディスコだけは学生証提示が必要。ただし、一般人も学生の同伴ゲストとして入ることは可能(身分証提示が必要)。お店や劇場はもちろん誰でも利用オーケー。図書館は学生でなくても入れますが、貸し出しは不可です。ここの学食にわざわざ食事に入ろうなどという一般人は当然いませんが、隣接のカフェのお菓子類はなかなかいけます。また、最近劇場の斜向かいにバーガーバーが登場し、まあまあ繁盛しているようです(試したことはありませんが)。
室内プールに隣接して、スポーツクラブ経営のバーがあり、昼には簡単な食事も出す他、週末の夜にはディスコに変身します。ただしディスコタイムに入るには、学生証の提示が必要です。それにしても、学生が5,000人ほどしかいない大学なのに、やたらと遊ぶ施設ばかりがしっかり揃っているのはどうしてだろう・・・。
交換留学は日本からもかなり来ていますが、いちばん目に付くのはアメリカ人学生。正規留学ではなぜかビジネス経営学部に香港、マレーシア等からたくさん留学しています。そのため、全体として東洋顔をたくさん見ることになりますが、その半分くらいは日本人ではなく中国系。私も留学中には中国系留学生と仲良くなりました。(※注1)
大学寮は基本的には自炊で、食事は出ません。スターリング大学の寮には「ホール」タイプと「フラット」タイプがあります。他に「シャレー」と呼ばれる山小屋スタイルの建物などもありますが、中はフラットと同じスタイルです。
ホールは入り口に守衛さん(Porter)が詰めており、中に入ると、長い廊下を挟んで個室がずらりと並んだ構成になっています。ホールは基本的に男女混成で、男女別棟になっているのは1つだけです。この唯一の別棟ホールでも、玄関を挟んで片翼が男子棟、反対側が女子棟となってはいるものの、出入りは自由なので、男子が女子棟に遊びに来て歩き回っていることなど珍しくはありません。
ホールの中には、各階にいくつか共同キッチンがあり、またトイレ、シャワー、バスも共用です。階下には公衆電話(私の留学していた頃は携帯なんて便利なものはなかったので、電話を受けるのにはとても不便だった)やコインランドリーがあり、またテレビ室というのも各寮に1つありましたが、正規の学生はほとんどが自室に小さなテレビを持ち込んでいました。
共同キッチンにはクッカー(オーブン・グリル・コンロが一体になっている)と流しが1つずつしかなく、それを8人くらいで共用するので、夕食の時間になると混みあって少々不便でした。また大きな冷蔵庫がでんと置いてあって、扉を開けると小さく区割りされていて、それぞれカギがかかるようになっています(カギをかけていないと中味を盗まれることあり)。冷凍庫がないのも不便でした。
ホールは夏季休暇期間中には閉鎖または旅行者や放送大学のゼミ受講者などが使います。そのため、夏休み中も大学に残らなければならない留学生は、フラットに移動させられます。大学の開講期間中には、フラットは大学院生やキャンパス住まいの教員に割り当てられているようです。
フラットでの生活は、数人がアパートをシェアして共同生活するようなスタイルで、サイズは2人用から8人用までさまざま(1寝室でダブルベッドを置いてある夫婦向けフラットもあるということは、あとになって知りました)。寝室は個室になっていて、キッチン、バス、トイレは共用。同じ建物内の他のフラットとは完全に別々になっていて、フラット毎に鍵がかかります。コインランドリーはフラット棟の外にランドリー室がついていて、他のフラットの住人と共用です。フラットのキッチンの冷蔵庫は普通の家庭にあるような冷蔵庫で、小さなフリーザーもついていました。キッチンのつづきにはささやかな居間のようなものがあり、食事の後にはここで団欒できます。全体にがやがやとしたホールと比べると、落ち着いた生活ができる環境です。
ところでこれはまったくの余談ですが、イギリスで"Asian"というと、インド・パキスタン系の人々のことを指します。インド亜大陸より東の国の住民のことは、"Oriental"と呼ぶようです。従って、日本人やマレーシア人、タイ人、中国人など、日本人が普通「アジア人」と考える系統の人々は、イギリス人にとっては"Asian"ではないんですねえ。