ウォレス・モニュメント

カンバスケネスからウォレス・モニュメントを望む
カンバスケネスからウォレス・モニュメントを望む

モニュメントまでの長い道のり

スターリングガイドの前書きに、「スターリングには古城があってモニュメントがあってと、エディンバラと似ている」というようなことを書きましたが、モニュメントとお城の間の距離がエディンバラてでは徒歩10分程度であるのに対し、スターリングの場合はかなり距離があります。おまけに、モニュメントとお城がそれぞれ別の丘のてっぺんに立っているため、1日で両方をカバーするつもりなら、観光バスがいちばんです。徒歩で同じ日に両方行くのは、よほどタフな人でないと無理だと考えてください。モニュメントはスターリングの町の外、大学の近くにあり、スターリングに1日だけ寄るという人には行きにくい場所ですが、がんばって行くだけの価値はあると思います。

まず丘のふもとへ

大学のキャンパスに泊まっている人なら、ウォレス・モニュメントの立つアビ―・クレイグの丘に行くのは簡単で、大学の裏門(エンタープライズパークというオフィス群を通り過ぎた先)から出て徒歩約5分くらい。目と鼻の先です。観光バスの場合も同じルートなので、大学の次の停車ポイントです。

スターリングの町からモニュメントに向かう場合、フォース河にかかる橋を渡り(※橋についての詳しい話は「カンバスケネス」の項の注1参照)、コーズウェーヘッド・ロードを辿ります。ちなみにこのコーズウェーヘッド・ロードは、ウォレスの軍が橋に攻め寄せた突撃ルートということになっていますので(このへんの詳しい話は「2つの合戦の話」を参照)、この道を辿りつつ、ウォレスに思いを馳せるというのもなかなかおつでしょう。ただし、ウォレス・モニュメントに行くつもりの人は、ここは歩かない方がいいです。後で絶対後悔します。バス(「Alloa via Tillicoultry」行きのバスがモニュメントの前を通ります)か車を使いましょう。この道の終わりにラウンドアバウトがあり、直進すると坂を上がったところにウォレス・モニュメントの駐車場があります。

丘の頂上へ

ウォレス・モニュメントの駐車場は、ソード・ホテル(Sword Hotel)というホテルをU字に囲むような変な形になっていて、その脇にモニュメントの売店があります。モニュメントの入場券は、ここで買ってもいいし、モニュメントの入り口でも買えます。売店のそばにあるウォレスの石像は最近作られたもので、ウォレスを記念してというよりはブレイブハートを記念して立てたらしく、メル・ギブソンの演じたウォレスを不細工にしたような像です。あまりの不細工さに地元の住民には大変不評で、除幕式の数ヵ月後には何者かがペンキをぶっかけるという事件があり、しばらくまた幕がかかっていましたが、その後きれいに洗い落としたようです。

ブレイブハートといえば、映画が完成した後メル・ギブソンは撮影に使った砦のセットをスターリングの町に寄付するから、ウォレス・モニュメントの前に設置してはどうかと持ちかけたそうですが、自治体の方で丁重にお断りしたらしいです。あの映画の歴史考証のいい加減さを見る限り、まあ妥当な回答だったかもしれませんが、モニュメントの前とは言わなくても、せめてアビー・クレイグの絶壁側のふもとにある公園に置くぐらいのことはしてもよかったんじゃないかなあという気もします。

丘のふもとから頂上までは、長い坂道がぐるっと丘を回りこむように続いています。それほど急には見えませんが、これがなにしろ長くて、歩いてのぼると頂上に着く頃にはいい運動をした気分になります。道の両側は木々や野草が生い茂っていて、元気のある人にはなかなか素敵な散歩道です。塔に登る前からいい運動なんかしたくないという人には、ありがたいことに売店の前からマイクロバスがピストン操業するようになりました(昔はなかったのだ)。

丘の頂上には、周囲のパノラマを説明する案内パネルがあって、遠くに見える山の名前なども書いてあります。天気が良くて空気が澄んでいる日には、ロッホ・ローモンドのほとりにそそり立つベン・ローモンドという山まで見渡せるらしいですが、私は行った時にはいつも雲だの靄だのの向こうに隠れています。丘の頂上で真下から見上げるモニュメントの塔は、遠くから眺めているときよりも一段と高く見えます。というわけで、まずはここで山を眺めながら休憩し、呼吸を整えてから、いざ塔へ。

ウォレス・モニュメントを登る

モニュメントの歴史

ウォレスといえば13世紀に活躍した英雄、では記念のモニュメントも由緒ある建物かというと、完成が1869年。古い建物がごろごろしているスターリングの町では、はっきりいってそれほど歴史があると自慢できるような建築物ではありません。その当時はちょうどスコットランドで民族主義的感情が高まっていたとかで、ウォレスゆかりの地スターリングに記念碑をつくろうという話が持ち上がり、市民の献金を集めてこのモニュメントを建てたのだとか。当時のお金で15,000ポンドという多額のお金が集まったというのだから、さすがはウォレスです。

こうして集めた寄付金で建てたモニュメントは高さ220フィート(67メートルくらい)、中には246段の螺旋階段が屋上まで通じていて、途中の部屋にいろいろな展示があります。展示内容は私が初めて登った時から何回か模様替えを経ていますが、昔からの目玉展示は1階の「ウォレスの剣」と、途中(何階だったか忘れた)の「スコットランドの英雄の殿堂」。

ウォレスの剣

モニュメントの入り口を入ったすぐのところにガラスケースに入れて飾ってある「ウォレスの剣」は、全長1.6メートル。私の身長よりも長いこの剣、もともとはもっと長かったのが、途中にひびが入ってしまったので修理した際少し短くなってしまったのだとか。日本刀なんかにくらべると無骨な感じで、見るからに重そうです。つばにあたる部分が直線の長い棒状になっていて、両手でここを自転車のハンドルのように握って振り回すことができるようになっているようです。映画「ブレイブハート」では、「ウォレスは身長2メートルを越える大男だと聞いていたが」と新参の兵に言われたウォレスが、「屁をこくと雷が鳴るんだとも言われてるぞ」とか何とか言い返す場面がありましたが、あれはメル・ギブソンの小柄さとつじつまを合わせるためで、これだけでかい剣を振り回したのなら確かにウォレスという人物は本当に図体がでかかったのだろうなあと、見ただけで納得できます。

この剣、一度モニュメントから盗難にあっていて、数ヵ月後に見つかったそうです。「運命の石」みたいな話ですね。あちらの事件の15年ほど前の話です。ちゃんと本物が戻ってきたんだろうか・・・というのは「運命の石」のことを思えばつい浮かんでしまう疑問ですが(運命の石偽物説の話はロンドン憶良さんの談話室や大原先生の旅行記に私がしゃしゃり出て書いていますので、詳しくはそちらを参照願います)、そもそも盗まれる前から本物だったのか?という疑問もありますね。でも、ひびの修理をした19世紀(モニュメントができる以前)にいちど鑑定をした時に、「柄の部分は15世紀のもの、刀身はもっと古い」という結果が出ているそうで、実際15世紀にスコットランド王位についたジェームズ4世がウォレスの遺した剣に新しい柄をつけさせたという記録が残っているそうですから、信憑性はかなり高いようです。

スコットランドの英雄の殿堂

不思議なことに、この殿堂(The Hall of Heroes)にウォレスの姿はありません。塔の外側にウォレスの立像を飾ってあるから、こっちはいいやということでしょうか。代わりにロバート・ブルースの胸像が飾ってあります。その他は宗教改革のジョン・ノックス、文学のウォルター・スコットとロバート・バーンズ、経済学のアダム・スミスから蒸気機関のジェームズ・ワットまで、ウォレスとは縁もゆかりもない顔ぶれが並んでいます。民族主義感情の高まりから生まれた記念碑だから、スコットランドを代表する有名人を並べたということでしょうか。

ウォレスの裁判

これは数年前に登場した新しい展示。セットに等身大の人形が飾ってあって、その人形の顔の上に、映像の顔を投影して音声とシンクロして映像の顔がしゃべるという趣向です。しゃべる内容はブレイブハートのように簡潔ではなく、英語がよくわからないとあまり面白くないかもしれませんが、ウォレスがどれほど非業な最期を遂げたかを示すという主旨の(?)展示です。さすがにその裁判のあとに続いた処刑シーンの展示まではありません。

ちなみに、ウォレスが受けた処刑方法は、ロンドン塔で後に定番になった「斧で斬首」ではなく、"hang, draw and quarter"という名前の刑です。これは3段がかりの処刑方法で、まず縄で首を吊り(hang)、息絶え絶えだがまだ生きているという状態のうちに腹を裂いて、内臓を引っ張り出して(draw)その場で焼き、最後に首吊り台から下ろして両手両足に縛った縄を馬につなぎ、四方に走らせて体を八つ裂き(quarterだから本当は四つ裂きですが)にするという壮絶な処刑です。イングランド王エドワードがいかにウォレスを恨んでいたかがよくわかります。さらに念を入れて頭も切り落として、頭はロンドンのタワーブリッジにさらし、四つに裂いた体はそれぞれスコットランドの主要4都市に送りつけたそうで、その後ロバート・ブルースが完全にエドワードの敵に回ったのも当然かもしれません。

やっと頂上

こうして途中の階の展示を見ながらひたすら階段を上っていくと、だんだん螺旋がきつくなっていき、何となく目が回ってきます。以前は100年間訪れた客の足のため階段の中央が磨り減っていて、足元もかなり不安だったのですが、その後修理して、かなり上りやすくなりました。といっても螺旋状の246段というのはかなりこたえます。てっぺんに着く頃には感慨もひとしお、でも頑張った甲斐があって、眺めはさすがにみごとなもの。塔の足元から見たときよりもさらにいい見晴らしです。ここでゆっくり休んだ後は・・・246段をまた下りるという試練が待っています。エレベーターなんて便利なものを置くようなスペースはないんです。上り下りとも同じ階段なので、混んでいる時はかなり押し合いへし合い状態になります。

私が登ったときはなかったような気がしますが、大原先生の体験記によると、今では頂上まで登った人に証明書を発行してくれるんだそうです(有料)。たかが階段と思うかもしれませんが、実際に登ってみると、確かにご苦労様という賞状の1枚くらいはほしいぞという気分になりますよ。ふもとの売店で証明書を売っていて、売り子の人にサインしてもらうんだそうです。大原先生の時は1ポンドくらいの値段だったとのことです。

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更新日: 2000-11-26